昨日、XR系のイベント「xR Tech Tokyo #15」に参加しました。XR関係のゲームからBtoBまでの動向を知りたかったので、発表内容をまとめました。
多数の発表があったため文章量が多いですが、記録も兼ねているのであえて全発表を記載しています。また、発表中に出てきた技術やサービスについても補足しました。
English highlight version is the following link.
A meetup report : highlight of xR Tech Tokyo #15 in Japan - CrossRoad
1. xR Tech Tokyoとは?
xR Tech Tokyoは、2016年からおおよそ隔月で開催している VR, AR, MR 関連の開発者向け勉強会イベントです。
引用:https://vrtokyo.connpass.com/event/121561/
XRに関する勉強会は多数ありますが、私の知る限りこのイベントでは毎回100人近くの参加者がいる規模の大きなものです。xR Tech Tokyo登録メンバーは前回14回目よりも増えていました。
2019/2/17(14回目) :2042人
2019/4/20(15回目):2173人
会場は前回同様、株式会社メルカリの18Fのホールエリアです。
2. 講演(30min session)
2.1. 東京クロノス~企画から開発、そして売り方まで~ /「東京クロノスサウンドの話 Part2」
発表者:MyDearest株式会社 代表取締役CEO 岸上 健人氏 @tokimekishiken、MyDearest株式会社 オークマネコ @ookumaneko_XD
東京クロノスとは、VRのミステリーゲームです。
4/20時点でOculus Essentials (Oculusが特に進めるアプリ一覧)に入っています。
引用(2019/4/20時点):Oculus Essentialsエクスペリエンス | Oculus | Oculus
この講演では、東京クロノスの企画をするときの狙いや、開発上の工夫(サウンド)についてお話されていました。ここでは全体をざっとまとめました。
2.1.1 東京クロノスのコンセプトとターゲット
コンセプト
「日本のトップクリエイターが集結して制作された プレイ時間15時間の世界最長クラスのVRゲーム」
東京クロノスを企画した2017年頃、こんな傾向があったそうです。
VRゲームではホラーが多くてミステリー系が少ない
ハイエンドスペック、楽しむためのゲームが多い
そこで、ミステリーゲームを作るにあたり、物語性を重視し、広い範囲のVR対応を目指すことにしたそうです。なお、アクティブユーザについて、PSVRは400万人、SteamVRは100万人前後なので、Oculus Go、他も対応することで、500-600万人のユーザ母数を想定しています。(ユーザ数は目安です)
ちなみに、今回は開発の話はサウンド限定でしたが、大方針として、「問題は個人のせいではなく仕組みのせい」という思想で開発を進め、スタッフ同士の喧嘩なども発生せず仲良く開発ができたとのことです。
2.1.2 VRゲームを売る時の考え方
以下のような考え方、戦略で進めたそうです。発売後1ヶ月程度でOculus Essentialsに選出されており、すごいことだと思います。
VRゲームを売るのは難しいことを認める
→いきなり出すのではなく、最初にコミュニティを盛り上げて、確実に買ってくれるファンをきっかけに販売を拡大
クラウドファンディングを活用してコアなファンを増やす
→KickStarterとCAMPFIREでコアなファンを集めたことで、発売後の初動に多くの購入につながった
(Oculus Essentialにのったきっかけはコアなファンがレビューをたくさん書いてくれたから)
VRは見た目で勝て
何かに似ていないと購買のきっかけができない。なので、似ていると言われるのはむしろよい。
キャラデザの参考作品は「ペルソナ」、「ダンガンロンパ」、「シュタインズゲート」
上記ゲームをご存知ない場合、公式サイトのリンクを貼ったので確認ください。絵の雰囲気が似ていることがわかります。
2.1.3 東京クロノスのサウンドの工夫
www.slideshare.net
dearVRというUnity Assetを主体で工夫されたそうです。
私はdearVRを使ったことがなかったので調べてみました。以下はアセットストアの説明文です。Unity Asset StoreのVR Essentialsに選ばれていますね。
dearVR is a professional audio engine for positional 3D audio and ultra-realistic acoustic room virtualisation. For Games, VR and 360° Video - easy to use with the Unity Audio Spatializer SDK (+5.2).
引用元:dearVR - 3D audio reality engine - Asset Store
Unity Asset StoreのHPにはDearRealityという制作元のURLも書かれています。Unityを使わないものも販売されているようです。
引用元:THE EVOLUTION OF AUDIO MIXING - Dear Reality
dearVRは多数の機能を持っており、東京クロノスではRoom Preset(約50種類の環境情報プリセット)、Reflection Level(声の反射)、Reverb Level(エコー)、Distance Correction(距離感補正)、Phi Angle Correction(視野内の音量)などを活用されたとのことです。
なお、今回のサウンド周りの発表は「Part2」となっていますが、「Part1」は別のイベントで発表されたそうです。せっかくなので載せておきます。
www.slideshare.net
2.2 VRの新常識
発表者:Vtuber/バーチャルマーケット主催 動く城のフィオ 氏 @phio_alchemist 、 Vtuber/バーチャルマーケット副主催 水菜氏@mizunana_T
バーチャルマーケットの説明です。
来場者が会場に展⽰された 3D アバターや 3D モデルなどを⾃由に試着、鑑賞、そして外部サイトを利⽤して購⼊できる仮想空間上の展⽰即売会です。バーチャルマーケットは、その開催を通じて「仮想現実空間を発展させ、豊かにする」ことを⽬指します。
引用元:バーチャルマーケット | トップ
講演ではバーチャルマーケットの特徴、狙いについて説明されていました。内容をざっとまとめました。
補足:vTuberについて不明な場合、前回書いた記事の3.1 VTuber、バーチャルアイドルを参考ください。
2.2.1 バーチャルマーケットの概要
バーチャルマーケットには6つのワールドがあり、それぞれのジャンルに近い店舗があります。ワールドの一例です。
バーチャルマーケット参加者は自分のVRヘッドセットをかぶってログインすると、これらの世界に参加することができます。参加者同士でお話したり、VRコントローラであちこち移動ができます。
VR体験がないと想像難しいですが、現実ではあり得ない空間で、アバターを介してリアルの人とコミュニケーションを取りながら買い物をする、という新しい体験ができます。
2.2.2 新常識とは?
ここで提唱された「新常識」とは、VRにしかない常識です。例えば、以下は現実空間では不可能(あるいは困難)ですが、VR空間では可能です。
テレポートができる
見た目を変えられる
高いところから落ちても死なない/怪我しない
頭上に何か浮かせることができる
しかし、VR初心者にはこのような「新常識」は通用しません。バーチャルマーケットを広げるには、VRに詳しくない人が増える必要があり、どうやって新常識を伝えるかが鍵になります。
方法1:現実世界と似たアイコンを使う
たとえば、上に移動するとき、エレベータに似たアイコンをつけることで、ここに乗ればよいと示せるようにしています。
ただし、発表者の水菜氏は、この方法で親和性が高いことは認めつつも、VR世界のための新しいアイコン、ピクトグラムの提案も必要ではないかと言われていました。
方法2:ユーザが操作で悩まないように、フールプルーフの概念を入れたり、共通アイコンでガイドする
フールプルーフとは、ユーザが間違った操作をしても危険を発生させない設計思想です。初めて知りましたが、製造業などで使われるようですね。
よく知られる例としては、正しい向きにしか挿入できない電池ボックスや、ドアが完全に閉じなければ起動しない電子レンジや洗濯機、ギアがパーキングに入っていないと始動しない自動車、左右に離れたボタンやレバーを両手で同時に操作しなければ降りてこない裁断機やプレス機、人が座っていないと水を噴射しない洗浄便座などがある。
引用元:フールプルーフとは - IT用語辞典 e-Words
VRコントローラのボタンを押したら、話しかけるつもりが服装が変わってしまった、ジャンプしてしまった、のような操作ミスが起きると、次回から入りづらくなるかもしれません。そのためにもフールプルーフは必要ですね。
2.3 日本のエンタメVRを振り返る (レポート公開なし)
株式会社バンダイナムコアミューズメント様の講演です。公開NGとのことですので、内容の記載は見合わせます。
登壇者の小山所長、田宮所長のお話はとてもテンポよく楽しかったです。
3. 講演(15min short talk)
3.1 (2019/8/18追記)FacebookとInstagramのアプリに標準搭載されているARカメラ制作の話
発表者:@BMA_JAPAN 氏
【公開用】xRTech_FacebookとInstagramのARカメラの紹介 - Google スライド
概要は下記の通りです。恥ずかしながら私は全て知らなかったので、勉強になりました。
FacebookやInstagramでは色々なエフェクトをつけて撮影できる
Spark AR Studioというソフトウェアを使ってオリジナルのエフェクトを作ることができる
Instagramではフォローするとその人のエフェクトを使えるので、注目されるエフェクトを作るとフォロワーが一気に増える
FacebookとInstagramは機能や制約にかなり差がある
カメラアプリとして現実にはやっているのはInstagram。Facebookアプリはあまり盛り上がっていない
ここでは、Spark AR Studioについて補足しました。
3.1.1 Spark AR Studio
こちらから無料でダウンロードできます。Macで作るのが主流らしく、Windows版は最近ある程度使えるようになったとのことです。
(2019/5/3 追記 Windows版がオープンベータ版になったようです)
Spark AR Studio - 拡張現実エクスぺリエンスを創造する | Spark AR Studio
FeatureやTutorial、FAQを見る限り、FacebookとInstagram専用に見えますが、かなり色々なことができますね。
引用元:拡張現実エクスぺリエンスを作成するためのSpark AR Studioの機能 | Spark AR Studio
(2019/5/3 F8の内容を追記)
発表者の@BMA_JAPAN さんが、F8の内容をまとめられていたので、Twitterのリンクを掲載します。このリンクからスレッドをたどると、具体的な内容がわかります。
先日xRTechで登壇したFacebookやInstagramのARカメラのことがF8で発表があったので捕捉。
— Junji Suzuki-ARカメラ作ります。 (@BMA_JAPAN) 2019年5月1日
登壇したとき「世界で一番使われるARになる」と言ったけど、すでに10億人が使っているARとF8で発表されました。やっぱり世界一使われているARなのは間違いない?#xrtech
(2019/8/18 追記 )
InstagramのAR機能が商用利用可能になったそうです。
3.2 サーモグラフィHoloLens作ってみた
発表者:@crispy2d氏
HoloLensにサーモグラフィを搭載した実験のお話です。どのようなものかは@crispy2d氏のツイートが最もわかりやすいです。
サーモグラフィーHoloLens、稼働中!
— Crispy! (@crispy2d) 2019年4月20日
体験できます!#xRTech pic.twitter.com/yEqs1ysW8a
ちなみに、今回使われたのはFLIRという会社のスマートフォン対応のサーマルカメラです。スマートフォン対応のサーマルカメラは下記3社が最大手とのことです。
FLIR(フリアー)
業界最大手、スマートフォン向け向けサーマルカメラを初めて出した会社だそうです。4,5万円程度で買えるのでよいですね。日本に正規代理店があります。
Seek Theamal
カルフォルニアのスタートアップ企業です。こちらも5万円程度です。
Seek Thermal | Affordable Infrared Thermal Imaging Cameras - Affordable Infrared Thermal Cameras
購入レビューがありました。
iOS/Androidスマートフォン向け汎用サーマルカメラ「Seek Thermal」のご紹介 - ガジェットの購入なら海外通販のRAKUNEW(ラクニュー)
Opgal
イスラエルの会社です。こちらは日本語情報が出てきませんでした。
Therm-Appֲ® - Handheld Thermal Device for Android Phones - Opgal
3.3 (2019/8/18追記)グルメサービス「eata(イータ)」にVRを取り入れた理由と課題
発表者:@ichi1984氏
「eata」とは、料理の写真から食べたいものを見つけるグルメサイトです。
eata(イータ) “食べたい”を見つけよう、料理から探すグルメサイト
口コミなどの第三者評価を第一印象にせず、自分の直感と食欲で見つけられることが従来のグルメサイトとの違いです。VRは、料理を食べている時の視点をスマートフォンで見ることができます。
これにより、初めてのお店でも来たことがあるような感覚で落ち着く効果があります。お店の料理人は、どのように作ったか、より美味しく食べる食べ方などを紹介できることで、お店の魅力をアップさせることができます。
3.3.2 課題
撮影機材によって、写真の写りが変わってしまうことが多いとのことです。180度や360度カメラで撮る場合、照明を置くなど、撮影向き環境を作りづらい(あるいは作れない)ので、カメラのスペック頼みでそのまま撮影することになります。
また、カメラが熱に弱いという問題もあります。たとえば、焼肉の撮影をするとき、カメラを肉に接近させることで本体の温度が上がって止まってしまうようです。
Mirage Cameraはmp4だが、Insta360 EVOはinsv(専用フォーマット)なので、専用アプリケーションによるエンコードが必要となります。
(Premiere Proプラグイン付きであれば、insvで読み込み可能)
エンコードからYouTube VRにあげるまで、各種作業が必要で待機時間が長いという問題があります。
eataはまだ始まったばかりのサービスです。個人的には口コミ評価の既存サイトには思うところがあったので、これからの広がりに期待ですね。
2019/8/18追記
すでにYou tubeで見られるようになっていました。
また、VRヘッドセットがなくてもスマートフォンやタブレットでも視聴可能です。
3.4 VRアバターをモバイルでより身近に!ARカメラアプリVismuth
発表者:@t5ujiri氏
ARカメラアプリ「Vismuth」の紹介です。「お気に入りのアバターでかっこいい写真を撮りたい!」がコンセプトです。
アプリの使い方は公式HPのスクリーンショットがとてもわかりやすいので紹介します。アバターの設置、向きや色合いが調整できます。
製作した背景はこのスライドのスクショがわかりやすいです。気になる方は公式HP、Twitterなどを参考ください。
公式HP
Vismuth
公式Twitter
Vismuth公式 (@Vismuth_AR) | Twitter
4. 講演(10min short talk)
4.1 みんな歩きVRしたくない?!
発表者:@zawazawatw氏
www.slideshare.net
電脳コイルやHyper Realityの世界を実現するために、必要な課題や解決方法を説明されていました。
参考:Hyper Realityとは下記のコンセプト動画です。
このような世界を実現するには、VRヘッドセットを日常的に使うことになります。しかし、VRヘッドセットを装着し続けていると、歩きスマホのような「歩きVR」問題が起きる懸念があります。それを解決するためのプロトタイプが下記です。
自分がVRヘッドセットをかぶったとき、自分に近い場所は通常風景のままで、離れた場所はVR空間を表示しています。
今後、VRヘッドセットを日常的に使えるような世界を作るため、安全性だけでなくコンテンツの拡充も図っていく予定とのことです。
4.2 WebでのARにはハードルがいっぱいあった話
発表者:@kyasbal_1994氏
Web技術で使われるARの可能性をみて、WebARに関する課題と、WebARを使ったサービスALtLayerの紹介です。
WebARはAR.js、8thWallなど、Webブラウザで使える仕組みが増えつつありますが、iOSでは制約が多いのが現状です。以下はiOS上の課題です。
httpsでないとカメラアクセスができない
アプリ内ブラウザ (FacebookやLINEなどで使われるブラウザ)ではカメラアクセスができない
iOS 12.2からジャイロセンサ設定が初期状態で無効化された
4.3 B2B向け XR開発戦略のススメ!
発表者:@halne369氏
www.slideshare.net
@halne360氏は、VR Imaginatorsという団体で活動されています。以下は、@halne360氏が感じたB2B向けの動向紹介です。
2016-2018 テストケース、R&D、PoC案件が多かった
2019 具体的な課題を抱えた企業が本格参入し、案件も具体的になった
他にも、ARiSというARアプリサービスをクリーク・アンド・リバー社と共同開発しているそうです。
VR/ARの新商品をコンテンツ東京で初披露 解像度4Kの一体型VRゴーグル「IDEALENS K4」も発表 | プレスリリース | ニュースリリース | クリーク・アンド・リバー社
4.4 ブロックチェーンで広がるXRの可能性とは?
発表者:@mogmogvr氏
VRが普及した頃に予想される社会問題と、それを解決するためのプラットフォームに関する説明です。
4.4.1 VRが普及した頃に発生する社会問題
Ready Player One で描かれたように、デジタルデータが不正コピーされ、アバターのなりすましや権利関係の揉め事がおきる
デジタルデータを特定企業が確保したままだと、企業がつぶれると社会的にも大きな問題になる
デジタルデータ売買プラットフォーム「Conata」
デジタルデータに改ざん困難な証明書を付加して、データがどこで保管されたかがわかる仕組みです。このように、購入時に履歴が表示されて、このデータに不正な履歴がないかを確認できることを想定しています。
余談ですが、ブロックチェーンについては以前セミナーまとめを書いたり、XRとの関連調べたことがあります。
XR技術者目線でまとめた「ブロックチェーン・ビジネスサミット2018」の内容について - CrossRoad
XR技術者目線でみたブロックチェーンとXR動向について - CrossRoad
今回のお話はそれらにはなかったものです。VR人口が増えた時は今回提唱された問題が起きそうですね。
なお、XRの社会の仕組みを作っていきたいので仲間募集中とのことです。
5. おわりに
今回はこれまで以上にARの話が増えていました。また、XRでWebを使う仕組みの紹介が増えてきたように思います。細々ですがBabylon.jsの動向を追っている私としては嬉しい傾向です。
babylonjs カテゴリーの記事一覧 - CrossRoad
デモ含め、今回のイベントについては、他にもまとめられている方がいらっしゃるので参照ください。
xR Tech Tokyo #15の内容レポート - トマシープが学ぶ
xR Tech Tokyo #15 いっちゃん的レポート - ゆるふわフラペチーノ
今回のxR Tech Tokyo#15は、色々な先端技術や取り組みが集まっており、とても勉強になりました。また、これだけの知見が日本で留まっているのはもったいないので、英語によるダイジェスト版も作ってみようかなと思っています。
2019/4/30追記
英語によるダイジェスト版を作成しました。
A meetup report : highlight of xR Tech Tokyo #15 in Japan - CrossRoad