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XR技術者目線でまとめた「ブロックチェーン・ビジネスサミット2018」の内容について

最近、ブロックチェーンという言葉を聞くことが多くなりました。ブロックチェーンはインターネットに継ぐ大きな変化をもたらす技術とも言われており、個人的にはどんな風に世の中が変わるかに興味があります。

そこで、今回は先日開催されたイベント「ブロックチェーン・ビジネスサミット2018」に行ってきたので、その内容をまとめました。

ちなみに、私は技術的にはDApps(ブロックチェーン分野で使われる技術の1つ)も触ったことがない初心者ですし、ブロックチェーン界隈の動向についてもわかってません。あえて関連づけるならばPubNubを使ってbitFlyerのAPIをUnityで見られるようにしたとか、HMD 「Meta2」を使って空間上に仮想通貨のトレード状況を表示させたことがあるくらいです。

【PubNub-Unity】仮想通貨取引所BitFlyer APIからTickerを取得する方法 - CrossRoad

Meta2体験会を開きました - CrossRoad

そこで技術・動向初心者の立場から聴いた内容を補足付きでまとめました。詳しい方からみると既知の内容が多いかもしれませんがご了承ください。


(2018/12/25 追記)

私が主に関わっているXR領域の観点から、ブロックチェーンとの関連をまとめました。

XR技術者目線でみたブロックチェーンとXR動向について - CrossRoad


1. (前提)ブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンとは、大雑把に言うと電子台帳であり、台帳に書いたことが世界中で共有されて改ざん困難である仕組みです。この仕組みを利用して世界中で技術研究、ビジネスへの適用が進んでいます。

とくにビジネスの適用については、例えば経済産業省の報告書でも様々な応用可能性が提示されています。

ブロックチェーン報告書のユースケース_経済産業省_201

引用元:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課, 「ブロックチェーン技術を活用したサービスに関する国内外動向調査報告書(概要)」, P.7, 2016

今回のビジネスサミットでは、このような応用可能性を実現化するための取り組みや動向を解説していました。

2. 今回のイベント「ブロックチェーン・ビジネスサミット2018」について

2.1 概要

イベントのURLはこちらです。

ブロックチェーン・ビジネスサミット ~Beyond PoC~ | Peatix

4つの講演がありました。後ほどいくつか解説します。並行してハンズオンセミナーも開催されていましたが、そちらは参加していないので説明を割愛します。

2.2 会場の様子

会場は2つの部屋に分かれており、1つは講演、もう1つはハンズオンセミナーでした。

講演会場

ブロックチェーンサミット2018の会場写真

講演会場では、ざっと数えた感じの聴講者は300名前後でした。

セミナー会場

ブロックチェーンサミット2018のセミナールーム写真

ドリンクコーナー、主催元によるブースもありました。

3. 講演の内容

各講演について、概要や気になったことをまとめました。なお、今回は全ての講演に参加したわけではないので、参加した講演について書いています。

3.1 2018年のブロックチェーンビジネスを振り返る

ブロックチェーンサミット2018講演1のタイトル

パネリスト

  • 小宮山 峰史氏 (株式会社bitFlyer 取締役CTO)

  • 志茂 博氏 (コンセンサス・ベイス株式会社 代表取締役)

  • 中村誠吾氏 (日本ユニシス株式会社  プラットフォームサービス本部 基盤技術部PF基盤開発室ブロックチェーン技術課)

  • 廣瀬一海氏(マイクロソフト株式会社) / モデレーター

3.1.1 各社の案件

  • 2017年と比較して案件の数が増加。金融だけでなく、非金融分野へ広がっている

  • ブロックチェーンに関する企業間のコンソーシアムができている

  • 複数企業が同じ目的で実証実験をするのはかなり難しく、実際は各社が個別に試している状態


(補足)たとえば、下記だと思われます。

2018/7 :オートモーティブ・ブロックチェーン・コンソーシアム Automotive Blockchain Consortium (ABCC)
新たなモビリティーサービス創生に向けた、一般社団法人オートモーティブ・ブロックチェーン・コンソーシアム(ABCC)設立について|KAULA, INC.のプレスリリース

2018/11 :不動産情報コンソーシアム Aggregate Data Ledger for Real Estate (ADRE)
不動産情報コンソーシアム正式に設立、ブロックチェーン活用の不動産情報共有始動へ 〜ADRE-不動産情報コンソーシアムが設立キックオフイベント - 仮想通貨 Watch


3.1.2 ブロックチェーンの事例

KrisPay (シンガポール)

シンガポール航空が提供元で、マイルをKrisPayというデジタル通貨として使える仕組みにブロックチェーンを活用しています。詳しくはこちらをご覧ください。

シンガポール航空、ブロックチェーンベースのデジタルウォレット「Krispay」をローンチ - THE BRIDGE(ザ・ブリッジ)

キマ☆チケ (日本)

会津大学、会津喜多方グローバル倶楽部、日本ユニシスによって作られた実証実験です。喜多方市の商店街の店舗で使える電子チケット(電子バウチャー)をブロックチェーン上で発行し、利用者はスマートフォンでQRコード決済で電子チケットを利用します。

詳しくはこちらをご覧ください。

ASCII.jp:ブロックチェーン上で喜多方ラーメンを奢る、会津大学の地域経済活性化プロジェクト|ザ・Azureワールド!Microsoft Tech Summit 2018レポート

3.1.3 ブロックチェーン案件を進める時に気をつけていること

  • データベースとの違いを説明する

  • 実証実験の目的を明確化する

3.2 ブロックチェーン、何が向いていて何が向いていないのか

ブロックチェーンサミット2018講演2のタイトル

パネリスト * 正田英樹氏 (株式会社chaintope 代表取締役CEO)

  • 杉井 靖典氏(カレンシーポート株式会社 CEO)

  • 東 晃慈氏 (株式会社HashHub CEO ) /モデレーター

3.2.1 現状のブロックチェーンの問題点

登壇者によると、現時点のブロックチェーン技術は、ビジネスモデルを変革するほどのものにならないと認識されています。

たとえば、多くの大企業は既得権益を保ちながらうまく活用する、という方針が多いです。また、案件にはブロックチェーンを使うけど管理者がほしい、というリクエストもあるとか。たしかに、だとしたら従来のRDB(Relational DataBase)の方がよいことになりますね。

3.2.2 あまり意味がないPoCの例

  • 既存業務の置き換え

  • 特定の人しか使わない仕組み

  • 業務上の制約を残したままの導入

登壇者の説明から考えると、これらはブロックチェーンを適用させることはできるけど費用対効果が合わないのだと思います。他の手段でも実現できるものではなく、これまでなかった付加価値を付けられる対象に適用することが重要です。

3.2.3 ブロックチェーン技術をビジネスにするための動き方

  • ブロックチェーンは、全体最適、創造的、破壊的な技術という認識を持つ

  • 日本では、新しい技術に対する規制が多いが、外圧に弱い。あるべき姿を描き、先に海外で成功させてから日本に持ち込むのもよい

登壇者は、家庭で発電した電力の売買を個人間で行う取引にブロックチェーンを使う仕組みを実現させるため、まずはマレーシアで試しているそうです。海外から日本、というのはかえって堅実な考え方かもしれないですね。

3.3 ブロックチェーンのユーザーエクスペリエンスを考える

ブロックチェーンサミット2018講演3のタイトル

パネリスト * 宇佐美 峻氏 (株式会社Yenom CEO )

  • 小川 晃平氏(株式会社VALU 代表取締役)

  • キヨスイ氏

  • 安 昌浩氏(株式会社ALIS 代表取締役 CEO)/モデレーター

3.3.1 仮想通貨アプリのUIの工夫について

  • VALUでは、換金は別会社の仕組みを使うなど、やれることを絞っている
  • Yenom(エノム)では、とびきりやさしいビットコインキャッシュウォレット、をコンセプトにして、とにかく簡単に使えるようにしている

3.3.2 ブロックチェーンを使ったゲームについて

  • 色々出ているが、面白さは有名なスマホゲームの方がずっと上という印象
  • 「マイクリプトヒーローズ(MCH)」が最も有名
  • ただし、MCHでさえも、DAU(Daily Active User:重複しない1日あたりのユーザ数)が160で世界1位だった。UIもだが、ゲーム自体もまだまだこれから発展する段階

補足 マイクリプトヒーローズ(MCH)について知らなかったので少し調べました。

3.4 Next Use Case

ブロックチェーンサミット2018講演4のタイトル

パネリスト * 大日方祐介氏 

  • 福島良典氏 (株式会社LayerX CEO)

  • 平野淳也氏 (株式会社HashHub COO)

  • 柿澤 仁氏 (OmiseGo) /モデレータ

3.4.1 これから起こりそうなこと

  • 銀行を介さないで通貨取引が増えていくはず

  • ゲームへの適用がさらに進んでいく

  • 自家発電した電力を個人間で取引する仕組みが活発化する。とくに日本では2020年以降、発電した電力を国が買い取らなくなるため

3.4.2 今のブロックチェーン界隈を見て思うこと

  • ブロックチェーンに関わる人には、アンチ政府、国家権力のような人が多い (補足:現状のルール、法律などへ不満があり、新しい技術を理解しないのが悪いという考え方を持つ人)。ただし、不満を言うだけでは変わらないので、法律や政府がわかる人を仲間に入れて真面目に対策した方が良い。

  • ブロックチェーンは多数の会社が参加して初めて意味がある。各社勝手に進めるのではなく、仕組みに乗りやすい準備が必要

  • 今のブロックチェーンに対する注目は、約20年前のインターネットが出始めた頃に似ている。例えば、2017年時点のウォレット所持者と20年頃前のWebサイトの数はほぼ同等。世界で同時多発的に起きているが、日本はまだまだ注目されているので、日本発のスタンダードを作ることはできる

4. 講演で何度も出てきた用語

以下、何度か出てきた用語です。頻度が高いと言うことはこの分野を理解するのに必要と思って書き出しました。

4.1 Dapps

Decentralized Applicationsの略で、以下3点を満たすものをDappsと呼びます。

①アプリケーションがオープンソースである
アプリケーションがオープンソースであること。またオペレーションは自動であり、中央のコントロール主体を持たない。 トークン、データ、レコードなどにつき、暗号化されて分散化されたブロックチェーンを利用している。
②トークンを利用している
アプリケーションはオープンに流通可能な暗号トークンを持ち、アプリケーション利用の際にトークンを利用すること。 参加者にはそのトークンによって報酬が支払われること。
③ユーザーの合意のもとでの改善
アプリケーションはマーケットやユーザーからの改善要求によりプロトコルを改善していくこと。この改善はユーザーのコンセンサスによること。

引用元:Dappsとは?分散型アプリケーション(Dapps)を分かりやすく解説! | はじめてのビットコイン

ちょうどAdvent Calendarの時期ですので、具体的な技術はこちらを参照ください。

Ethereum Advent Calendar 2018 - Qiita

4.2 スマートコントラクト

ブロックチェーンの中で行われる処理を自動化させる仕組みのことです。最初誤解してましたが、賃貸契約とか、雇用契約手続きを自動化する、という意味ではありません。

スマートコントラクトの説明はこちらがわかりやすかったです。

ブロックチェーン上で契約をプログラム化する仕組み「スマートコントラクト」

4.3 ガス代

仮想通貨「イーサリアム」の送金手数料の呼び方です。一般的な手数料との違いとして、ガス代は変動します。理由は下記のサイトがわかりやすかったのでご参考ください。

イーサリアム(ETH)の手数料Gasとは?その仕組みや目安について解説 | dApps Market|ブロックチェーンゲームのアプリ攻略と口コミ評価サイト

4.4 オフチェーン

処理の一部を別の仕組みで行う技術のことです。ブロックチェーン技術を使ってなんらかのデータ送受信(例:仮想通貨の移動)を行うと、記録を担当する端末所持者に手数料が支払われますし、記録完了するまでに時間がかかります。 そこで、全処理ではなく、最初と最後の結果のみメインのブロックチェーンで記録し、途中経過はオフチェーンで行う、というように使われます。

こちらがわかりやすかったのでご参照ください。
オフチェーンとは <初心者向け> ブロックチェーンの次なる技術 - とってもやさしいビットコイン

4.5 サイドチェーン

メインと定義するブロックチェーンだけではできなかったことを担当し、本来やりたい機能を実現するために追加で設定されたブロックチェーンです。 何をメインとするかがよくわからなかったのですが、いくつかの記事を見ると、ビットコインのブロックチェーンを「メイン」としていると考えて良さそうです。

最初、「オフチェーン」と一緒のことかと思いましたが、オフチェーンはブロックチェーンの特徴である分散記録をしない場合も含む代替処理の総称で、サイドチェーンは分散処理をしている点に違いがありそうです。

色々調べましたが、サイドチェーンについては、こちらの記事がもっとも明快でわかりやすかったのでご参照ください。
サイドチェーンとは?色々な仮想通貨に利用される技術を解説!! | CoinOtaku(コインオタク)

サイドチェーンとオフチェーンの違いはこちらがわかりやすかったです。
オフチェーンとは?意味や仕組み、実装例、問題点を初心者向けに解説! | CoinOtaku(コインオタク)

4.6 ライトニングネットワーク

いくつか調べましたが、お金の決済で使われているようです。なんども発生する送金処理があった場合、信頼されているオフチェーンに途中処理を任せて、結果をメインのチェーンに記録する仕組みです。これにより、送金処理の効率化、手数料の削減に繋がります。

こちらが調べた限りでは最もわかりやすかったです。

ライトニングネットワークとは?ビットコインの少額支払いを可能にする最新技術を解説! | CoinOtaku(コインオタク)

なお、ライトニングネットワークは途中の送金処理をオフチェーンに任せることと、信頼されているオフチェーンの選択に偏りがあると中央集権的になっていくことが懸念として指摘されています。こちらにわかりやすく書かれていたのでご参考ください。

現実は厳しい? ライトニングネットワークの仕組み をメリットデメリットと共に図解説

4.7 エアドロップ

マーケティングキャンペーンで使われ、仮想通貨を希望者に無償配布することを言います。 iOSの機能で、デバイス間でファイル共有する仕組み「AirDrop」と同じ言葉です。しかし、ブロックチェーン、あるいは仮想通貨界隈では全く異なる意味で使われています。

5. 感想

これまで、ブロックチェーンがどの程度使われているかはまるで知りませんでした。そのため、海外も含めた動向がわかる今回のビジネスサミットはとても参考になりました。
金融分野以外でも実証実験、コンソーシアムなどの流れが起きていること、海外でも活用事例が増えていることから、来年もその流れは続くように思います。 あと、せっかくなのでXR関係の技術との関連を調べたら、AR/VR関係でいくつもの例が出ていることがわかりました。これは長くなるので別の記事で解説します。

私はブロックチェーン関係の技術には疎いですが、今回の参加を元に勉強したことがきっかけで、自分の知っているXR技術との結びつきがあるとわかったのが新鮮でした。また機会があれば異分野のイベントにも出てみたいと思います。